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Fragment 3

2025年4月27日
日本 某県某市 終電後の寂れた駅前

 まだ肌寒い夜だった。
 ちかちかと瞬く街灯が、人気のない通りを照らしている。駅前のベンチに腰掛けて、青年は微かに肩を震わせた。渡されたばかりのカフェオレの缶を握りこむ。冷えた指先からじわと温みが広がる。
 青年はちらと、隣に座る警官を見た。警官はゆったりと腰をかけ、ブラックコーヒーを啜りながら空を見上げていた。辺りに街灯が少ないからか、星がよく見えていた。

「すみません。奢ってもらっちゃって」
「いいんですよ、ポケットマネーだし。ぼくが好きでしたことだから」
 
 それで、と青年の型に嵌ったスーツ姿を眺めながら、警官は問いかけた。

「なんで一人で、こんな辺鄙なところまで? その様子じゃ、旅行って感じでもないでしょう」

 わかりますか。青年はぎこちなく笑う。

「本当は今日、仕事があったんですよ。連休の初日だっていうのに。仕事をやめて、好きなことをやって終わろうみたいな人もいるのに……それに、最近、詐欺とか強盗とか、すごく増えてるじゃないですか。どうせ死ぬからって。……電車のニュースでそういう話を見てたら、なんか――」
「まじめに働くのがばかばかしく思えてきた?」
「……まぁ、そうですね。あはは、警察の人に話すことじゃないですよね、こんなの」

 どうせみんな終わるのなら、最後に無法をしたっていいんじゃないか。それで稼いだ大金で、好きなことをやってから死んだって。恨みと怒りを買ったとしても、どうせ残り二月と少しなのだから。そう思ってしまった自分のことが嫌になって。
 気がついたら会社の最寄駅を過ぎていた。
 青年の話を聞いていた警官は、少し考える素振りをして、口を開いた。

「今度ね、ぼく、子供が生まれるんですよ」
「えっ、あっ、おめでとうございます」
「ありがとうございます。……ぼくはね、生まれてくる子に誇れる父親でいたいんです。誇れる父親のまま、最期を迎えたい」
「……だから、最期までまじめに働くんですか」
「そうです」

 警官は朗らかに笑って続けた。

「どんな人として、最期を迎えたいか。それを考えるのがいいんじゃないかと、ぼくは思いますよ」

あなたはどのような人でしたか。
どのような人であろうとしていましたか。
それは、終わりを前にして揺らぎましたか。
終わりを前にしても、揺らがなかったのでしょうか。

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