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2025年3月1日
某国 昼下がりの街中
「あ、失敗してる」
一緒に歩いていた女がそう呟いて、ふと立ち止まった。
何かと思えば、街頭ビジョンを見上げていた。ニュース速報を流しているらしい。画面には、『彗星軌道修正、失敗』と大きくテロップが出ている。連日、終わりゆく世界のことを伝え続けているせいだろうか。ニュースキャスターは暗い顔をして、抑揚のない声で原稿を読み上げている。
「何、彗星って軌道、変えられるの?」
「さぁ。今のカガクリョクならやれるはずだって、考えたんじゃないの」
「マジ? 頭の良い人たちが考えることってぶっとんでんね」
ニュースキャスターに続いて、偉そうなコメンテーターがぐだぐだと話し始める。けれど、言っていることの半分もわからない。かろうじてわかったのは、打ち上げたロケットか何かが上手いこと当たれば、地球に迫る彗星をちょびっと掠めるぐらいにできたかもしれなかったってことだ。
「で、何。結局失敗したわけだから……」
「変わらず、7月5日までの命ってことじゃない?」
「ふーん」
どうでもよさそうに相槌を一つ。
女はそれきり、ニュースへの興味を失ったみたいだった。
「行こ。最近流行りのカフェって、この辺だったよね」
「そーね。混んでないといいなぁ」
ニュースの声が遠ざかる。
地球彗星が迫っている。
残された時間はあと4カ月。
その事実を知っているからといって、実感はわかない。宇宙の果てから来ているんだと言われたって、ビルの隙間から覗く空は青く遠く、いつもと変わらない。
見えない星のことよりも。
今の私たちにとって重要なのは、話題のカフェで美味しいケーキを食べられるかどうかだ。
「ていうか、何で話題なんだっけ」
「終末セールやってるって話」
世界が終わると知らされてから、あなたはどんな日々を過ごしたのでしょうか。
誰かとともに過ごしたのでしょうか。
ひとりきりで過ごしたのでしょうか。
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